先制攻撃

 


16日早朝、ミッドウェーの上空は厚い雲に覆われていた。


索敵を敢行した米軍の索敵機はすぐさま撃墜され、ミッドウェーの模様はうかがい知れない。

大方、苦戦を強いられながらも陸上部隊が奮戦していることだろうとミッチャーは想像した。

しかし朗報は別の形で届けられた。

「われ、敵機動部隊発見!空母3隻からなる艦隊・・・なお同じ規模の艦隊が複数点在す。

敵主力機動部隊ナリ・・・位置ミッドウェー島南西・・・」

敵主力機動部隊を発見したのだ。

その時、外角を行く駆逐艦から対空砲火が上がった。

どうやらこちらも発見されたらしい。

昨夜、ニミッツ長官から任意で日本戦艦部隊の足止めを要請されたが、機動部隊の追撃中ということで

、やんわりと断った。


米国空母任務部隊はミッドウェーの北東に位置しているため、艦載機の進撃路は日本戦艦部隊を掠め通

ることになる。


しかしミッチャーはあえて攻撃をさせず日本機動部隊との決戦に全戦力を投入しようと腹をくくってい

た。


「ミッドウエー島を挟んでの航空戦になるな」

「ミッドウェーの救援はいかがしましょう?」

「今はあくまでも敵艦隊の撃滅を優先する。勝利の暁にはミッドウェーの救援を行おう」

ミッチャーの決断はある意味正しかったが、あまりに空母戦に徹したがゆえ、柔軟性にかけてしまって

いた。


「わが36任務部隊は全力をもって第一次攻撃を決行する。スプルーアンスの58任務部隊は第二次攻

撃を行ってもらう」


30分後、甲板に並べられた攻撃機は一機また一機と離陸にかかった。

直奄の戦闘機を除いた総勢550機の大編隊が日本機動部隊に向けて進撃を開始した。

 


「大佐!10時方向より敵機多数!」

「想定済みだ、ニックの戦闘機部隊に迎撃させろ」

進撃を開始して一時間半・・・日本戦艦部隊の至近を通過するため、迎撃戦闘機が待ち構えているであ

ろう事は想定していた。


そのため、定数より多い戦闘機を搭載し、十分対抗できるように手はずを整えている。

しかもどの隊も半数はF8ベアキャットを有している。

以前のように一方的に追い回されることはないだろう。

テイラー攻撃隊指揮官はニックの戦闘機部隊70機を分離し、敵迎撃機に向かわせた。

テイラーは空中戦を開始したニックの部隊の脇をすり抜けて、なおも進撃を開始する。

「もうすぐミッドウェーの至近を通過します。・・・

味方戦闘機多数、ミッドウェーから上がってきます。約100機!これは心強い」

テイラー大佐は味方を勇気づけようと対内無線で援軍到着を伝えた。

喚起がこだまし、士気が上がる。

テイラーは編隊を崩さずなおも進撃を続けるが、隊員の悲鳴を聞いて凍りついた

「敵機―!」


ミッドウェーから上がってきた編隊はやや上方後方からゆっくりと近づいてきたが、

やにわに増速したかと思うと、いきなり襲い掛かってきた。

てっきり味方だとばかり思って防御体制もとっていなかったので

はじめの一撃でかなりの機数が被弾、炎上した。

 

F8 ベアキャット
ヘルキャットの後継機
生肉をそぎ落としたおかげで、速力、運動性が大幅にアップした。
F6F ヘルキャット
操縦の安定性には定評があったが、すでに時代遅れの感がある



ミッドウェーを基地にした第3飛行団は特設艦艇や輸送艦によって同島に運び込まれてきた。

徹夜で整備をし、完了と同時に出撃命令が下ったのだ

その数130機、主力は343空、航空団結成に尽力した源田実が指揮を執っている。

戦闘機隊指揮官 菅野 直大尉は編隊を崩さず飛行を続ける米艦載機を見て、とっさに相手の誤断を悟

った。


戦闘隊形をとらずゆっくりと後方から近づいた菅野隊は頃合いを見計らって、後方から襲い掛かったの

だ。


米軍も気がついたが何しろ大編隊、後方での惨劇を指揮官が把握するには少しの時間を要した。

「スミス隊は後方の敵編隊を迎撃せよ!マック隊は横だー!」

完全に遅れをとったテイラー大佐の指揮は状況を掌握仕切れていないため、かえって混乱をきたした。

上方から下方から、護衛戦闘機の防御をくぐり抜けた343空の疾風はアベンジャーを、ヘルダイバー

を、容赦なく20ミリの野太い火線で絡めとっていく。


菅野大尉は指揮を取りながら、みずからも敵戦闘機群に踊りこんでいった。

「大尉!見慣れない戦闘機が混じっています!新型です!速い!」

部下の指摘に、小型だが一際すばやく身を翻す新型戦闘機を目にした。

熊蜂のようだ・・・菅野はそのずんぐりした姿をそう比喩した。

敵戦闘機の約半数はこの熊蜂のようだ。

レシーバーで隊員に注意を促すと自ら目の前に飛び出してきたベアキャットに空中戦を仕掛けた。

運動性能はほぼ疾風に匹敵する。

巴戦においてもヘルキャットとは比べ物にならない運動性能を示したが、菅野は右に振ると見せかけて

左下方へ逃れようとする敵機を、距離をつめて一連射、左翼を射抜かれたベアキャットはくるくる錐揉

みしながら落ちていく。


「防御力はF6Fヘルキャットのほうが上かもしれない・・・」菅野はそう評価をしたが

次の瞬間には、思考を切り替えて次の獲物を捜し求める。

ベアキャットは確かに疾風の優位を脅かす存在ではあったが、ベテラン揃いの日本機に対抗するには、

いま少し時間が必要かもしれない。


550機の攻撃隊は途中、ニックの戦闘機隊を分離したとはいえ、突入前にその数を大きく減じてしま

った。編隊も幾つかの小編隊に分かれてしまっている。


「5時方向、敵機!もう駄目だー!」

「3時方向、食いつかれた、た、助けてくれー」

怒号と悲鳴がレシーバーから流れてくる。

敵機の集団から逃れた米艦載機は、小編隊を組みながらさらに進撃をする。

あともう少し・・・日本機動部隊に爆弾を投下するまでは・・・

しかしテイラー隊の前には今の敵と同数ほどの日本機が待ち構えていた。

機動部隊の護衛機の本隊である。

著しく数を減じた戦闘機隊が、勝てぬとわかっていても突撃していく。

もう生還は出来ないな・・・

テイラーは最後の勇気を振り絞って突撃をかける。

「大佐!伏せて!」後部座席の電信員が叫ぶのと、銃弾が機内に飛び込むのとほぼ同時だった。テイラ

ー大佐のヘルダイバーは横合いから突っこんできた疾風の銃弾を受け、機体は真二つに裂け、墜落して

いった。

 

 

荒鷲ふたたび…

 


米第一次攻撃隊が上空に現れる一時間前、日本機動部隊も2派に分けて攻撃隊を繰り出していた。


第一次攻撃隊は志賀淑雄中佐が指揮する閃風、疾風の戦闘機部隊300機。

この攻撃をもって、直奄に当たる敵戦闘機を蹴散らす。

第二次攻撃隊は江草隆繁中佐指揮の戦爆連合600機が無防備になった敵艦を攻撃する手はずになって

いる。


山口艦隊司令長官は再び起こる大海戦を前に艦上に居並ぶ搭乗員を前に激励の訓辞を行った。

「諸君の働きが日本を救うであろう・・・」と。

轟音を立てながらハー45改のエンジンが、またはハー47の甲高いタービン音が鳴り響き、一機、ま

た一機と翼を翻し飛翔していった。

 

第二次攻撃隊は途中、黒い塊となって南下を続ける米艦載機群とすれ違った。

戦後の情報開示で、この艦載機群はスプルーアンスの米第二次攻撃隊と判明したが、お互い挑む敵は、

さに在らずとでもいうように手出しをすることなくすれちがった。


志賀中佐率いる第一次攻撃隊は10:30に米機動部隊至近に到達した。

前方には黒雲のごとく、米戦闘機が空母を守らんと、てぐすね引いて待ち構えていた。

「0時方向敵機多数、およそ150、さらに2時方向、多数接近中!電探にて確認」

攻撃隊には警戒機として数機の高速偵察機 彩雲が付き従っていた。

これらの機には対空電探が装備されていて、早期に敵の動向を探ることが出来るようになっている。

「甲部隊は前方の米戦闘機群に突撃せよ!乙部隊は敵第2群を阻止せよ!」

志賀は矢継ぎ早に命令を下す。

戦闘機だけで構成された第一次攻撃隊は、以後の攻撃の成否を握る重要な役目を担っている。

一機でも多く敵の戦闘機を落とすことは、第2時攻撃隊の艦船攻撃を容易ならしめる。

第一次攻撃隊300機は、多くのベテランパイロットで占められていた。

まずは、一番槍といわんばかりに真っ黒に塗った機体にどくろの戦隊マークが怪しげな

穴吹 智大尉の閃風が躍り出た。

負けじと機体の半分を赤く染めあげ赤武者を模した佐々木勇大尉の閃風も追従する。

一撃離脱を得意戦法とする、日本のトップエース岩本徹三中尉の中隊は高度を上げ獲物を捜し求める

構えだ。


黒江保彦が、西沢広義が、杉田庄一が・・・世界に冠する日本の撃墜王が一同に揃い米軍機に突撃を敢

行する。


穴吹隊は真正面から敵の指揮官と思しきベアキャットに挑みかかった。

20ミリ機関砲は狙いたがわず目標に吸い込まれ、プロペラが吹っ飛んだ。

撃墜を確認する間もなく二番機の放った火線を交わし、すれ違いざまにトリガーを引く。

佐々木隊も交戦に入った。

杉田は不意に目前に飛び込んできたヘルキャットに張り付くと後方確認をする。

撃墜体制に入ったという心の油断が、いつ裏目になるかわからない。

いた・・・敵2番機がこちらのバックを取ろうとしている。

囮か…杉田は罠にかかったふりをして2番機の接近を許すと、敵が射撃を始める直前に宙返りに入った



自動空戦フラップが働き急旋回に血の気が引く。

敵2番機はあわてて離脱にかかるが杉田は、今度は2番機に食らいつき一連射、これを葬る。

サッチウェーブ・・・サッチ少佐が考案した対疾風対策の欺瞞行動で、囮に引っかかり吊りだされた日

本機を僚機が撃破するものであったが、すでに隊内無線の発達した日本機にはほとんど効果がなくなっ

ていた。


敵よりも優位な高度を維持していた岩本隊は小隊長機を見つけるとダイブをかけ、確実にしとめる。敵

の死角からの接近で、確実にしとめる様は鷲のごとくであり、瞬く間に撃墜機数を量産していく。


おのおのが最も得意とする戦法で、エースたちは敵機を撃墜していく。

まさに大空のサムライ、戦国時代の英雄、豪傑たちが甦ったごとくである。

どの戦線でも繰り広げられたことだが、落ちていく機体は米国の機が圧倒的に多い。

 

閃風
烈風の後継機。
2300馬力エンジンを積み、時速700キロを超えた。
疾風
日本空軍主力戦闘機


しかし米軍も今度ばかりは蹴散らされるわけには行かない。


彼らもエースパイロットを揃え、待ち構えていたのだ。

マッキャンベル少佐はベアキャットを駆って、日本機を追い立てていた。

マリアナ沖の航空戦にも参加した彼は、日本機の変化に驚いていた。

どちらかというと個人を主張するよりも全体の統一に重きを置いていた日本機は

どの機も変化に乏しく、せめて隊長マークが帯として胴体に巻かれている程度で

地味なイメージを持っていた。

しかし今回の航空戦では、思い思いの迷彩や、パーソナルマークをつけた機体がほとんどである。

そんなことを思い描きながら、今また、日本の独特な文字を使って顔を描いたマークを持つ日本機を葬

った。


「ヘィ!3機目!次!」マッキャンベルは周りを見回した。

上空より舞い降りて、一撃の下に味方機を葬って離れていく日本機に目が止まった。

「くそっ!」マッキャンベルは下降し、その憎っくき日本機のバックに追いすがった。

胴体には撃墜マークなのだろうか・・・無数の桜の花びらが描かれている。

間違いなく日本のトップエースなのだろう・・・

「相手に不足はない!」マッキャンベルは距離をつめると一連射を加えた。

日本機は、かろうじて射線を交わすと何とか逃れようと右に左にと回避運動をとる。

日本機が照準機の真ん中に捉えられた。

「もらった!」

トリガーを引き連射を浴びせる。

炎にのた打ち回る日本機がそこにあるはずだった・・・

しかし、撃墜マークで胴体が赤く染まったその機は、信じられない軌道を描いて自分の機をやり過ごす

と後ろにぴたりと張り付いた。


「インスメルターン!」戦闘教本で読んだことのある、最高難度の飛行術、米軍パイロットが誰一人出

来ない高等術をいとも簡単にこなし、あっという間にバックに付かれたとき、


マッキャンベルは感嘆と共に今まで感じたことのない恐怖に駆られた。

次の瞬間野太い火線が愛機に突き刺さり、コックピットが煙に覆われた。

マッキャンベルは錐揉みになりながら落ち行く愛機を必死で操りながら機外へ脱出した。

落下傘で降下しながら自分の敗北を悟るとともにわが軍はとんでもない相手と戦っていることを痛感せ

ざるをえなかった。


ボング少佐は、米海軍パイロット中、最多撃墜機数を誇るトップエースである。

39個の撃墜を示す日章旗が誇らしげに描かれている。

この日も何機かの日本機を餌食にした後、残存弾薬数を確認する。

「あと一撃分か・・・」

ボングは、やや離れたところに一塊の戦隊が飛行しているのに気がついた。

彼らは戦闘に参加しようとしない。

よく目をそらすと、その中の一機は部隊長を示す派手な帯が胴体に巻かれている。

「最後の獲物はあいつだ・・・」

ボングはぐいぐいスピードを上げ、下からの突き上げにかかった。

指令機を護衛していた坂井三郎大尉は、猛然と突き上げてくる敵機を見つけ身を翻した。

坂井は前回のマリアナ沖において、笹井隊長を失い、自らも手傷を負った。

眼の負傷は、エースパイロットとしては致命的だったが、指令機の護衛ならばと

無理を押して参戦していた。

とっさに気がついたのはベテランとしての勘からであろうか・・・

双方の機は空中ですれ違った。

ボングの機から黒煙が上がった。どうやらエンジンの一部に被弾したらしい。

もはやこれまでと離脱にかかる。

坂井機は隊列に戻ってきたが胴体に数発の命中弾を受けたらしい。

「大丈夫か・・・?」

レシーバーでの問いに、声ではなくうなずき返してくる。

坂井は今の戦闘で機内に飛び込んできた破片で負傷していた。

しかし気力が彼を任務遂行に駆り立てている。

「隊長は俺が守る・・・」

坂井はこの日の負傷で二度と空を飛べない体になってしまったが、戦後執筆活動を通じて

撃墜王として名を馳せることになる。

 

第一次攻撃隊が、ほぼ掃討が完了する頃、第二次攻撃隊600機が進撃してきた。

敵艦隊上空に敵機がいないのを確認すると江草中佐は効率よく敵艦隊をしとめるため

各編隊に細かく指示を出す。

すべての中隊には誤認のないように、通し番号がつけられている。

「101中隊、外郭後方左の駆逐艦を攻撃せよ・・・102中隊は左2番艦、巡洋艦を攻撃せよ・・・

」隊内無線を使って次々に指示を出す。


攻撃隊上空は戦闘機隊指揮官 板谷茂中佐が戦闘機を射点上空まで護衛するように各戦隊に指示を出し

ていた。


残存の敵機が突っかかってくるが、護衛戦闘機が排除にかかる。

第一波の攻撃隊が急降下を開始する。

米軍もVT信管つきの防空射撃を開始する。

一個中隊9機が次々に目標とした駆逐艦に、または巡洋艦に投弾をし、翼を翻す。

第一波の攻撃が終わると4隻の艦艇が煙を上げているのが見て取れた。

江草は続いて第二波に攻撃を命じる。

かつては攻撃開始のト連送を送ると各々が定めた目標、それも大型艦に向かって攻撃をかけていた。

敵の輪形陣を掻き分けて、最奥の主力艦に向かうわけで、到達前に被弾することが多く

有効な攻撃方法ではなかった。

しかし、隊内無線が発達すると攻撃分担を行い、的確に輪形陣をこじ開け、かつ被害も最小に抑える攻

撃法が考案された。


江草はその新戦法を駆使して、敵空母を葬るためのお膳立てを組み立てていたのである。

第三波が攻撃に移る。次第に苛烈になる対空砲火・・・防空巡洋艦と思しき戦闘艦がしきりに弾幕を張

り巡らす。


急降下に入った一番、二番の彗星が火を吹く。

三番機も被弾してバランスを崩した。投弾できたのは四〜九番、あまりに激しい弾幕のため、命中弾は

1発のみ・・・


すかさず予備の降爆隊に命じてこれを撃破した。

輪形陣に隙が出来ると、米軍も前方の艦を下げ、穴を埋めにかかる。

「輪形陣の間隔があいた!好機到来!223中隊、224中隊は左前方より空母を攻撃せよ」

上空より艦隊の動きを見て取った江草は、艦攻隊に雷撃を命じる。

海面すれすれまで降りていた流星艦上攻撃機の一部が翼を翻した。

村田重治中佐率いる223中隊は大きく間隔の開いた輪形陣にたやすく進入すると

超低空を維持したまま中隊を扇状に散開させ、射点に向けて突撃する。

対空砲火がより激しくなる。機関砲の中にはわざと海面を撃ち、波のカーテンを作って

侵攻を阻止しようと試みるものもある。

「5番機、消えました!」村田の後ろに座る機銃員が叫ぶ。

波のカーテンに不運にも突っ込みバランスを失って海に引きずりこまれたのだ。

「3番機被弾!6番機落伍!」

このままでは全滅してしまうかと思われた頃、

「距離1千、撃ぇー」ガクンと魚雷が外れるとふわりと持ち上がりそうになる機体を押さえて退避にか

かる。


不用意に機体を浮き上がらせた僚機が機関砲を浴び火達磨になった。

「命中です、1、2、3、4本命中!」機銃員の声が喜びのあまり上ずっている。

こじ開けた輪形陣から随時艦攻が、艦爆が進入し、攻撃を加える。

逃げ惑うシマウマに群がるジャッカルのように定めた獲物の喉を噛み、足を砕くがごとく

確実にその生命を奪っていく。

 

ヨークタウンU
エセックス級量産型空母の一艦
ミッチャー提督の旗艦
アトランタ級
多数の高角砲を積み、防空の要となった。



「何をしているのだ!機関砲員はしっかり狙え!防火斑、何とかしろ!」

ミッチャーは指揮官らしくない狼狽振りを露わに、部下をしかりつけていた。

「お言葉ですが、皆懸命にやっています!敵の攻撃が組織的で見事なのです。」

前方を走っていたワスプUが4本もの魚雷を受け傾いている。

生還できるかは微妙なところだ。

ミッチャーのヨークタウンUも2本の魚雷を受け、炎に包まれている。

今また別の雷撃隊が、こちらに迫っていた。

「海面を狙え!近づかせるな!」恐慌に陥ったミッチャーが怒鳴り散らすが、機関砲の発射音に遮られ

て良く聞こえない・・・というよりも聞こえないふりをしているのか・・・


艦長の指示で艦が取り舵に回り始める。

攻撃隊も微妙に方向を変えたようだ。

まもなく射点と見たのだろう、黒い塊を投下すると遁走に移る。

「面舵いっぱい」艦長が今度は反対に舵を切る。しかし船内に大量の海水を飲み込み、艦の動きが鈍い



「長官!何かにつかまってください」

下から突き上げる衝撃でつかまっていたのにもかかわらず強引に弾け飛ばされた。

艦橋直下に命中した一弾は多くの司令部要員を殺傷した。

ミッチャーは奇跡的に打撲ですんだが、冷静沈着なブラウン参謀長はすでに息切れていた。

「被害は深刻です。ただいま3発命中、機関停止しました。この艦は助かりません。

退艦してください。」

しばらく唖然としていたが、すぐに気を取り直して

「旗艦をクリーブランドに移す」といい、さっさと仕度にかかった。

あまりにあっけなく放置されたヨークタウンU艦長スミス大佐であったが気を取り直して


総員退艦、いそげ!」命じると自らは最後までとどまる決心をした。

 


ミッチャーがクリーブランドに移乗する頃には戦闘はひと段落し、日本機は西の空に引き上げにかかっ

ていた。


「被害は甚大です。ワスプU、ヨークタウンU、プリンストンU、ニューヘブンが雷撃により沈没、カ

サブランカ、コーラルシー、コレヒドールが爆撃により紛失、


レキシントンU、イントピレットU、ベローウッドUは、沈没は免れましたが航空機の着艦は出来ませ

ん。その他、護衛艦の多数が沈没または大破して・・・」


「そんなことより、生存した空母は何隻なんだ!」

指令部員の報告を遮ってミッチャーは苛ただしげに問いただした。

「空母で戦闘可能なのは、リスカムベイとセントローのみであります。」

確かに600機の大編隊の攻撃を受けたのだ。しかも精鋭の日本機である。

全滅でもおかしくないくらいなのだ。

「長官、よろしいでしょうか?」

幕僚の一人が控えめに発言を求めた。

「スプルーアンス提督の58任務部隊は無傷であります。」

「本当か!」

ミッチャーは暗闇に光明を見出したように、にやりと不敵な笑みを浮かべた。

「残存艦は、58任務部隊に合流する。レイに伝えてくれ」

ミッチャーは今の攻撃が日本の全攻撃隊であることを見切った。

わが第一次攻撃隊の艦載機が敵護衛機により阻止されたと報告が入っている・・・

ということは、レイの第2時攻撃隊はがら空きの日本艦隊上空に侵攻しているはずだ。

「まだまだ勝負はついていない!」

ミッチャーは一刻も早く合流しスプルーアンスと共同戦線をとらなけらばと考えている。

最後の手柄は私が取る・・・・

ミッチャーの志向は自分の出世に向けられていた。

 

 

                          
   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鋼鉄の巨人たち

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