新たな戦力

 


米国太平洋艦隊では、査問委員会が開かれていた。

「リー提督の処遇だが、更迭の声も上がっているが・・・」

「負けたわけでもないのに処罰というのも厳しすぎるのではないか・・・」

「しかし旧式戦艦相手にこちらの新鋭艦がスクラップにされてしまっては割に合わん。やはりここは・

・・」


査問委員の意見が更迭に傾いたとき、ニミッツ太平洋艦隊司令長官が口を挟んだ。

「ここはもう一度、彼にやらせてみてはいかがなものだろうか?

戦場にいたものしか会得できない経験を彼は学んでいる。 

それにこれからの重要兵器のひとつ『レーダー』の第一人者として、艦隊戦には必要人物である」

「しかしミッチャー第36任務部隊指揮官の話によると艦隊戦には手出し無用と援護を断ったというじ

ゃないか・・・航空機の支援があればたやすく撃破し、あわよくば全艦撃沈も可能だったはずだが」委

員の一人が指摘する。


リー提督はじっと椅子に座って目をつぶっていたが、握られた拳は怒りのために震えていた。

戦後明らかにされたところによると、ミッチャー提督は自分の失態をかわすために

リー提督に罪を擦り付けたというのが真実らしい。

ミッチャーの機動部隊は日本戦艦群に2派にわたる攻撃を仕掛けたが、ミッチャーとしては日本機動部

隊を優先に攻撃をかけたかった。


ところがリー提督より足止めを食らわせてほしいとの要請があり、しぶしぶ日本機動部隊を追撃しつつ

も戦力を戦艦部隊に振り向けた。


結果、多数の航空機を失い空母部隊への攻撃を断念せざるを得なかった。

しかしリー提督は日本戦艦群に追いつくや3次攻撃の用なしと一方的に通達してきたのであった。

リー提督としては単純に艦隊決戦で決着をつけたかっただけだったのだが、ミッチャーにはリーの要請

のために、むざむざ日本空母部隊を取り逃がしてしまったと映ったらしい。


この二人の確執は後日、大きな綻びとなって具現化してしまうことになる。

 



結局二人の提督は指揮権続行で決着が付いた。

おのおのの艦隊には新造艦が次々に終結しつつある。

時に6月中旬・・・リーの元にモンタナ級3,4番艦『オハイオ』、『ルイジアナ』が到着し、1週間後

、ついに対日戦の切り札、18インチ砲搭載の大戦艦、一番艦『ロードアイランド』2番艦『メイン』

がその巨体をパールハーバーに横付けした。


全長294メートル、全幅38メートル 7万トンにも達した同艦は、尾張級に比べ若干軽いものの、

単純に大きさでは世界最大級であり、先日まで威勢を誇ったモンタナ級を簡単に凌駕する迫力を持って

いた。


45口径18インチ砲(約46センチ)9門搭載は大和級と同等ながら十分に対抗できるものと期待され

ていた。


ロードアイランド級は対大和戦を意識して建造された艦である。

マリアナ沖で露見した46センチ砲は米国に戦慄を与えたが、もともと日本戦艦を砲撃力で圧倒するため

に開発は進められていた。


しかし完成前に、先を越されたことで工期を前倒ししてでも今海戦に間に合わせるため突貫工事で就航

したのであった。


しかし、決戦距離から自砲で撃たれても耐えられる防御力をともつことが戦艦の課題になるのだが、そ

の条件を満たすにはこの級は大きすぎた。


全面に防御を施すと排水量は9万トン以上にまで達し、艦速は24ノットにまで落ちてしまう。

苦渋の結果主要部にだけ対46センチ防御を張り、それ以外は対40センチ防御とした。

つまり大和級と砲撃力では互角ながら防御面では若干の不安を抱くことになる。

大和級は防御の重要性から極力、艦を小型化して集中防御を図った。

大型にして小型といわれた大和型の面目躍如といえるだろう。

それに引き換え、ロードアイランド級は砲撃力に耐えうる船体を得るために肥大化していくというまっ

たく逆の発想から誕生したといえる。

 


「損傷したモンタナ、コネチカットも後
10日で戦列に復帰します。」

「よかろう・・・」ニミッツとリーは満足げにうなずいた。

「今度こそジャップを完膚なきまで叩きのめしてご覧に入れます。」

リーは自信に満ちて答えると「直ちに訓練に入る。レーダー射撃の錬度を上げるため全力を挙げるのだ

」と、司令部部員に命じると艦上の人となった。

 


一方、ミッチャー提督の空母群も想定戦力をほぼ満たした格好になった。


やはり同時期に新たにエセックス級正規空母6、インディペンデンス級軽空母4の戦力が補充され、
計エセックス級正規空母
8.インディペンデンス級軽空母6 カサブランカ級護衛空母10を保有するこ

とになった。


稼動航空機数1,240機、文字通りマリアナ海戦時をはるかに凌駕する保有数に至った。

「不安材料としてはパイロットの錬度だが、とにかく来るべき決戦の日までに少しでも腕を磨かせなけ

れば・・・」


ミッチャーは戦力の増大と裏腹に一抹の不安を抱えないではいられなかった。

「トラック沖の海戦で、最後の熟練したパイロットを多数失ったのは痛かった・・・

ジャップの対空砲火があんなに熾烈だとは想像もしていなかった。」

「わが軍のVT信管に匹敵したものをやつらもすでに戦力化していたということでしょう…」

「やつらの主力戦闘機ハヤテの性能も相当なものだ。F6Fヘルキャットでは歯が立たない」

「その件ですが、今回編入した新空母には、次期戦闘機の先行増産型ベアキャットが搭載されてきまし

た。ヘルキャットより小型ですが運動性能が格段に向上しているとのことです。」


グラマンF8ベアキャット…ハヤテに対抗して作られたF6Fヘルキャットの後継機。

贅肉を落として、すっかりスリムになった機体は、ヘルキャットと同じエンジンを積みながら、重量を

3分の2に軽減し、時速689キロに達した。武装は12.7ミリ4挺と多少非力の感があるが俊敏な

機動性は、補って余りあるものがある。


「ベアキャットならハヤテに十分対抗できると思います」

「性能だけじゃない、要はそれを扱う人間だよ」

ブラウン参謀長の楽観論にミッチャーは釘を刺した。

 


上空では戦闘機の編隊訓練と、急降下爆撃訓練が行われていた。


目標艦からかなり離れたところに、爆弾が着弾している。

「何をやっている!今のパイロットは晩飯抜きだ!」航空参謀の叱咤の声が飛ぶ。

ミッチャーは心細げに訓練を見上げていた。

 

 


マリアナ崩し

 

そのころ、日本においても次期作戦について議論が紛糾していた。

「米軍がまた同じ過ちを繰り返すとは思いません。強力な対抗手段を持ってわが軍を返り討ちにすべく

、手立てを打っていると見るのが自然でしょう」


「マリアナのときのように、こちらの勢力圏内に誘い込むという手は、もはや通用しないと思われます

。だからといって日が経てば経つほど、敵は強大になってしまいます。今が叩き潰す最後の機会と見た

ほうがよろしいかと・・・」


参謀たちの見解に山本五十六司令長官は考え込んでしまった。

「いっそのことハワイを攻略してみては・・・」

「馬鹿な!それではマリアナの二の舞はこちらが踏むことになるぞ」

「しかし米軍から仕掛けてくるときには、戦力差は歴然としてからでしょう。

それでは間に合わん」

議論が滞る中、山本は高田利種情報部長に意見を求めた。

「ハワイからの情報では今月新たに戦艦3ないし4、空母も大小10隻程度が戦力に加わりました。ま

た新型戦闘機も確認したとあります。」


今までの喧騒が、つばを飲み込む音が聞こえるほど静かになった。

高田は、さらに続けた。

「これによる戦力は戦艦10ないし11、空母にいたっては大小24ないし25隻となります。動員搭

載機総数は1200ないし1250機、わが軍との戦力は拮抗しています。


この冬、戦力は我方を完全に上回るでしょう。

しかしこの時期に米軍から仕掛けてくることはないと思います。

いかに最新鋭とはいえ、動かすのは所詮人間…完熟し戦力となりえるにはいま少しの時間が必要と考え

ます。」


「叩くのは今か・・・しかし米軍がこちらの目論見どおり決戦を挑んでくるかどうか・・・

むしろ決戦を避けて戦力の拡大を図り、満を持しての攻勢に出るのではないか・・・」

山本の心配にマリアナ海戦の立役者、山口多聞航空艦隊指令長官が発言した。

「マリアナではわが艦隊は完勝を収めました。米国がこちらの作戦を研究して立案するならば、マリア

ナでのわが軍を破る作戦を考えたらいかがでしょうか・・・


ハワイを攻略するのです。そこでマリアナの我軍を模して待ち構える米国艦隊の裏をかくのです。」

「そんな簡単にことが運ぶとは思えん・・・」角田覚治の心配に「ハワイは米軍最大の拠点です。ここ

を失っては太平洋の覇権そのものを失いかねません。


必ず反撃に出てくるはずです。戦力も拮抗していますし、艦船もみな新型、ニミッツも艦隊戦に自信を

取り戻していることでしょう。」


「しかしマリアナでわが軍がやったようにハワイの空軍が総力を上げて攻撃してきたら、艦隊との二正

面作戦になる。これでは返り討ちになりかねない」


皆も一様にうなずく。

「だからこそ、マリアナ崩しの作戦を考えるのです。艦隊をハワイの制空権外におびき出す。それも制

空権外に出ざるを得ない状況に追い込んで・・・」


山口は島田権道と児玉次郎を呼び寄せて、作戦の内容を説明させた。

一同は食い入るように傾聴した。

 


司令部で作戦会議が開かれる2週間前、次郎と権道は久々に八木右作の研究所を訪れていた。


彼らはトラック沖海戦の敗北後、山本、山口両提督から次期作戦の格子を立案するべく特命を仰せつか

っていた。


「次の作戦、勝てると思うか?」

「勝たなくてはいかん。しかし高田中将の情報によればマリアナのときよりも困難なことは確かだ。少

なくても負けない戦いを立案しなければ・・・」


「待たせたな・・・」

右作が扉を開けて応接室に入ってきた。

「まぁ、一杯やろう。貴様たちが来るなんてよっぽど訳があるんじゃないか?」

右作は研究者にしては、とても気さくな男であった。

棚から自慢のウイスキーを取り出すと自らに注いで、お前らも飲めとばかりに差し出した。

「これは機密事項だが、次期作戦の格子を作るよう命令が下った。マリアナのときのような完勝はもう

望めないし、同じ手はもう通用しまい」


「航空攻撃も常識を覆す戦術で勝利をもぎ取ったが、敵も防衛策を考えているだろう。

まぁ早い話、考えが行き詰っている」

権道も次郎も責任の大きさに今にも押しつぶされそうだった。

「それで俺のところに泣きつきに来たんじゃないだろうなぁ」

右作は少年のような目つきで、にこにこ二人を覗き込んだ。

お酒も入り舌が滑らかになると、権道は右作に聞いた。

「貴様の電探は我が艦隊を勝利に導いた。敵もそのことは十分研究し尽くして対抗してくると思う。そ

こでだ、敵も同じように強力な電探を装備しているとして、それを無効にする手はないか?」


「なに!」

右作は目を剥いたが、咄嗟に権道が言わんとしている事を理解した。

「電波兵器は目標物に電波を当て、距離や方位を割り出すものだ。たとえ目視できない状態でも電波が

戻ってくれば位置が知れる。これを見ろ」


右作は引き出しから一枚の紙片を取り出してきた。

「これはただのアルミ箔だ。しかしこれが電波を乱反射させて電波の波を乱す。たとえば、艦隊の前面

にこのアルミ箔を大量にばら撒くと乱反射を招き、こちらの所在を欺瞞することが出来る。もっとも、

こちらも電探は使えなくなるのだが・・・」


「なるほど・・・」

「ただ空気中に散布すれば大気の影響で風に乗って流されてしまう。戦闘中に撒き続けるのは現実的で

はないなぁ」


権道はじっと紙片を眺めていたが、「これが電探に大量に張り付いてしまったらどうだ?」

右作は、にやっと笑って「もちろん使えなくなるよ」

右作は、権道が言わんとしたことを瞬時に察したようだった。

 

それからの二人は作戦会議に向けて、不眠不休で立案に没頭した。

「米国が我々と同じような作戦を立てているとすれば、ハワイで大量の航空機を待機させて減殺作戦を

展開するのは目に見えている。戦いはハワイの制空権外で行なわなければならない」


米国も馬鹿ではない・・・あくまでも制空権内に我々が飛び込んでくるのを手ぐすね引いて待ち受けて

いることだろう。」


「いかにして、敵艦隊を制空権外におびき出すか・・・出てこざるを得ない事情はないか・・・」

二人はハワイを中心とした中部太平洋の地図を食い入るように眺めていた。

ミッドウェー・・・ハワイからな1900キロあまり離れた環礁である。

日米の関係が悪化すると、最前線基地として脚光を浴び、多いときは100機ほどが駐留していたが、

現在ではほとんどの部隊がハワイに引き上げていた。


単発機が増量タンクをつけて往復も可能だが著しく燃料を消費する戦闘を行なっての帰投は不可能であ

る。


次郎と権道はお互い顔を見合わせ、頷きあった。

「戦国期の戦いで三方ヶ原の戦いというのがある。家康の立てこもる浜松城の目前で信玄は突如反転す

るんだ。


領国を蹂躙されたばかりか面子まで失った家康は、三方ヶ原を越え、隘路に入った信玄の軍勢を見て戦

を仕掛ける好機と考えた


しかし、信玄は急遽再反転、まんまと城から吊りだした家康を完膚なきまでに叩き潰した。

ハワイが浜松城ならミッドウェー沖が三方ヶ原、ミッドウェー攻略で忙しい日本艦隊の背後をつければ

・・・」どう思う、次郎・・・


「うむ・・・良い発想だが、もう一捻りがほしい・・・マリアナの時には航空兵力、特に戦闘機の投入

量に差があった。航空戦では制空権を取ったほうがはるかに有利である。」


「たしかに・・・敵艦隊をおびき出すためには背後を突く絶対的な有利性と、敵が追撃したくなるよう

な要素が必要だ。」


権道は艦隊の立場で、次郎は航空戦の立場でお互いの意見と疑問を投げかけあった。

「これはかなり綿密な準備が必要かもしれんが、奇策だ・・・」

次郎はミッドウェーという囮の使い道について語った。

作戦案を聞いた権道も大きく頷いたが、これは陸軍を説得させるのは並大抵ではないぞと釘をさす。

「しかし面白い案だ。マリアナをミッドウェー島に再現するのだな」

「そうだ・・・マリアナを模して返り討ちにしようとする米軍を、逆にこちらの『マリアナ』に誘いこ

む・・・」


よし、その案に沿って立案してみよう。

「これなら空母部隊は必ず引きずり出せるが、敵主力艦隊を制空権外に出させるには・・・」

「これが一番難しい」

「初戦でわざと負けるか・・・」

権道は次郎を睨みつけた。

冗談だと言わんばかりに次郎は謝る。

「こればかりは超法規的な事象が働くしかあるまい。米提督の功名争いとか、仲たがいとか・・・しか

し、空母部隊だけが引きずり出されることはあるまい。必ず戦艦部隊のアシストはあると思う」


浜松城の眼前での反転を模して日本戦艦部隊を制空権外で反転させる案を格子としたが、米軍の長距離

攻撃の可能性を踏まえて十分な戦闘機の護衛をつけることとした。


うまくいけば、初戦の戦い如何ではつり出しに成功するかもしれない。

しかし、各艦隊の綿密な連携と行動が必要である。

数日後に控えた作戦会議に向けて二人は鬼神のような形相で作戦の格子を纏め上げたのである。

 

 


新たな翼

 


その頃、航空母艦剛龍の飛行甲板にピカピカの新型戦闘機が着艦した。


「お〜、これが閃風かぁ〜、スマートな機体じゃのう」

大鳳に着艦した戦闘機は、次期主力として開発されていた『閃風』である。

疾風の性能向上型で、より小型化に成功したハー47型エンジンを搭載した2300馬力級戦闘機であ

る。


カウリングが、より絞り込まれたため空気抵抗が減少し、且つ翼流層の採用により、最高速度は730

キロに達した。レシプロ機としてはほぼ限界のスピードに達したと見てよい。武装は20ミリ機関砲×

2、13ミリ機関砲×2と若干控えめだが携行弾が増えたのと直進性のよい弾道でむしろ扱いやすくな

ったといえるかもしれない。


もちろん疾風と同様、加給機(ターボ)付きなので高高度での戦闘にも対応できる性能を有している。

今回、第一、ニ機動部隊に増試量産タイプが100機搭載されて作戦につく。

 


その頃、各航空部隊では部隊マーク以外にもパーソナルマークや撃墜マークを胴体や尾翼に描くのが流

行っていた。

各自は猛訓練の合間を縫って思い思いのマークを愛機に施した。


「なんやぁ貴さまのはぁ、豚の絵やないかぁ」

「はぁ、実家が養豚場なもので・・・しかし浅野二飛曹は思いつかんといって、へのへのもへじを描い

とりますがなぁ」


中には航空隊は違えど、兄弟で参加している大林兄弟は風神雷神を、

子供が生まれたばかりの佐藤一飛曹はでんでん太鼓を描いているものもいる。

洒落ものの加藤飛曹長は、米軍に習って裸の女性の姿を描いたが上官から不謹慎とされ、裸の上にもん

ぺを描かされて、失笑を買ったなどの話が伝わっている。


しかし、異色を放ったのは岩本徹三中尉の機体で零戦時代からの撃墜マークを胴体一面に描きこみ、そ

の数93個の桜マークで胴体が真っ赤に染まって見えたという。


ちなみに彼の使用済み零戦は、予科練に記念機として飾られ、後人の戦意高揚に一役買っている。

トラック沖海戦から帰還した杉田庄一少尉は雪辱を晴らさんと「必勝」の文字を、勇猛で鳴る菅野直大

尉は大きく騎馬武者を描かせるなど、各人パーソナルティに溢れていた。


かつて戦国時代の武者が自分を誇示するために鎧兜に装飾を行ったが、まさに大空のサムライが甦った

ごとくであったという。


機体迷彩も部隊ごとに工夫が凝らされ、案を持ち出しては標準色の緑の上に彩色を施した。

第3機動部隊に所属する穴吹智大尉の301戦隊は迷彩より威圧をと機体全面を真っ黒に塗り髑髏の戦

隊マークを描き、対抗した佐々木勇大尉の302戦隊は機体半分を赤く染め上げ戦国期の赤備えを模す

など戦闘機部隊は派手な機体が目立ったが、攻撃機は目だって敵機に食われてはかなわないと地味な機

体が多かったようだ。


パーソナルマークも小ぶりで淡い色取りが好まれた。

第一機動部隊旗艦、剛龍艦上では受領したばかりの閃風を前に板谷茂(戦闘)中佐、江草隆繁(艦爆)

中佐、村田重治(艦攻)中佐が久々に顔を合わせた。


彼らは海戦以来、常に各攻撃隊の隊長として陣頭指揮を執ってきた戦闘指揮官たちである。

「次の戦いは、この戦いの天王山じゃ、心してかかろうぞ」

「うむ、我らは全力で敵艦を葬る、板谷、我らを敵艦上空まで守ってくれよ」

「わかっておるわい、大船に乗った気でいろ、この閃風があれば敵など何するものぞだ!」

三人とも高笑いでしばしの歓談に花が咲いた。

航空隊はその絶頂期を迎えていた。

 

 


待ちうける者

 

「日本艦隊に動きがあるとの報告です。」

ハワイの太平洋艦隊司令室には主だった幹部が集合して作戦会議が開かれようとしていた。

「艦隊がマリアナに集結しています。本国でも陸軍部隊の大規模な移動が確認されました」

「ジャップの攻撃目標は特定できたのか?」

「まだです、しかし敵の暗号の中にHAの記号が盛んに使われております。」

「HAといえば、単純に考えてハワイではないのかね」二ミッツ以下、幕僚は色めき立った。

「本当にやつらはハワイを落とすきか・・・いくらなんでもハワイは太平洋最大の拠点、トラックとは

訳が違う・・・精鋭10個師団を投入しても、そう簡単に落ちるものではない!」


確かにハワイは島というよりも大きな要塞といっても過言ではなかった。

兵力10万にも上る精鋭陸上部隊を擁し、機械化も進んでいる。また義勇兵を募れば15万以上の兵力

となろう。また常設戦闘機部隊は300機を超え、戦略空軍の爆撃機の基地もある。


軍港は太平洋艦隊のすべての戦力を収容する能力を有し、本国の基地並みの修復能力を持つ。

島そのものが難攻不落の要塞であり、浮沈の空母であった。

「敵も総力を上げて攻略にかかってくるだろう…こちらも全戦力を投入して防戦に務めたい…敵の攻撃

目標を正確に知る手立てはないものか?」


「私に一計があります」そのとき通信参謀のギャルソン准将が発言を求めた。

「偽の電文を送ってみてはいかがでしょうか?たとえばハワイに山火事が起こったとか…」

「それは面白い、さっそくやってみてくれたまえ」

もしHAがハワイを指す暗号ならHAに山火事発生と打電してくるだろう・・・

「万が一のことがある、本国に要請して航空兵力を増員しよう。陸軍にも要請を打診してみてくれ。ジ

ャップがハワイを目指しているのなら、都合がいい。日本にはお礼返しの習慣があると聞く。


やつらがマリアナでやった作戦をそのまま引用して何十倍にして、お返ししてやろうじゃないか。」

二ミッツのジョークに笑いが漏れた。

「艦隊のほうはどうかね・・・」

「はい、レーダー射撃の制度は大分あがってきております。そもそもこのシステムは熟練した水兵を必

要としません。


機械さえ読めればゲーム感覚で覚えられます。

短期間での養成が可能なのです。」ミニッツの問いにリー提督は自慢げに答えた。

空母部隊を預かるミッチャー提督も「新しく投入されたF8ベアキャットの性能は満足できるレベルで

す。


これならハヤテに互角以上の戦いを挑むことが出来るでしょう。

ただ初陣のパイロットが多いのが気がかりですが、トレーニングは順調に進んでおります。」

「今度は私たちも参加させていただこう」今までおとなしく壁に寄りかかっていた巨漢がのそのそと前

に歩み出てきた。


カーチス・ルメイ少将・・・戦略爆撃集団の指令として着任したばかりの将軍である。

「高高度からの爆撃が艦船に対して効果が薄いのは承知しております。

危険はありますが高度6000メートルから、B−29をもって大量の小型爆弾を投下し、広範囲にば

ら撒きます。


小型とはいえ、対空火器やレーダーには大きなダメージを与えることでしょう。対空能力を奪いさえす

れば敵艦撃破はたやすくなる・・・空母に対しては甲板を損傷させれば、艦載機の発艦に重大な影響を

及ぼすでしょう」


二ミッツはしばらく考え込んでいたが、総力戦なら奇策も必要かと承認した。

B−29は全身をハリネズミのように武装した、文字通り超空の要塞である。

速力576キロ、積載量最大9トンと、当時の爆撃機では群を抜いていた。

ハワイには60機を保有していが、60キロ爆弾なら一機あたり実に150個の積載が可能である。た

だ、懸架装置が対応できないためそんなには積めないのだが・・・・

 


またハワイには陸軍所属の航空隊が駐留していた。


こちらも新鋭のP−51ムスタングが配備されている。

ニミッツは自信があった。

地の利を利用して亡きキンメル提督が成しえなかった日本艦隊の殲滅を果たし、これを足がかりに日本

を屈服させんことを・・・。

 


数日後、『HAは山火事に見舞われし模様』の日本軍の暗号文をキャッチした。

 

 

出撃のとき

 


昭和20年8月6日、日本の各軍港から主力艦隊と上陸用部隊を乗せた大艦隊が、空母部隊はすでにマ

リマナに展開して3日後の会合にあわせて出撃の予定である。


雲ひとつない暑い日であった。

出航に際しては、高らかにに軍艦マーチを奏で見送るもの、見送られるもの総出で帽振れをして出撃を

祝った。


「長官、いよいよですね」

「うむ、島田、児玉中佐らには、感心をさせられる・・・しかし戦いには非常道がつきものだ。如何に

臨機応変に対応できるかが鍵となろう」


角田主力艦隊司令長官は若き士官の発想に感心すると同時に自分への戒めも忘れなかった。

主力艦隊は以下の陣容となる。

 



戦艦部隊


 大和 武蔵 信濃 尾張 紀伊 播磨 薩摩 長門 陸奥

巡洋艦部隊

高尾 愛宕 麻耶 足柄 那智 最上 鈴谷 三隈 熊野

装甲巡

筑摩 白根 黒姫 伊吹 大淀 仁淀

水雷部隊

阿賀野級 島風級 夕雲級 陽炎級

 


旗艦は前海戦で艦橋に被弾し大破したものの、装甲を新たに施し指揮系統を一新させた大和に将旗を翻

した。


単縦陣を組んでいるが、その編成は従来の戦隊単位とは異なる進撃順を取っている。


旗艦大和を先頭に、2番艦播磨 3番艦尾張 


4番艦武蔵 5番艦薩摩 6番艦紀伊


7番艦信濃 8番艦長門 9番艦陸奥 


という陣形をとる。


各艦の性能差を相互支援で補う工夫である。

戦艦部隊の両脇を固めるように巡洋艦部隊、水雷部隊が付き従う。

また、トラック沖海戦の教訓から別行動ながら龍譲、大鷹 雲鷹 沖鷹 神鷹 海鷹の

軽空母部隊が戦闘機のみを積載して主力艦隊の上空を護衛する役目を仰せつかっている。

 



「長官、そろそろ出航いたします」


「よろしく頼む、会敵するまで私の出番はないようだ」

操艦を大和艦長有賀大佐に任せると、角田は司令部部員と共に早々に艦橋から退出した。

今度の作戦は命令を下すタイミングが重要となる。

多聞丸はマリアナ沖の大勝のあと、今海戦の生起を予期していたのだろう・・・彼が今回の立案を指示

したという。


彼を信じよう・・

角田は山口多聞のそして若者らの作戦を忠実に再現してやろうと思った。

 



「長官、本土より主力艦隊が出航しました」


空母部隊旗艦 剛龍艦上で報告を受けた山口多聞航空艦隊司令長官は、各艦隊の司令官を招集して、最

後の作戦会議を催した。


連合艦隊司令長官 山本五十六もマリアナにて作戦の総指揮を取ることになっている。

彼は作戦前の最後の訓示を行った。

「今回戦は興国の存亡をかけた最後の機会となろう。敗れれば、講和の道は絶たれる。

必勝をかけて各員、奮迅していただきたい。

作戦は何度も打ち合わせたとおり、航空部隊の働きとミッドウェー島攻略の如何にかかっている。

冷静な判断でこの難局を乗り切ってもらいたい。

なお、前線での指揮は山口君に一任する。」

山本は山口多聞に席を譲った。

譲られた山口は再度作戦の格子を説明した。

傍らには権道と次郎が補佐役として付き添っていた。

「ひと月ほど前、ハワイにて山火事が発生したとの情報を得た。

しかしちょう報員の報告にはその事実はなかったという。

米軍はわれらの暗号コードにHAが頻繁に出てくるのを怪しんで偽情報を流してきたと推測される。

敵もHAがハワイであることを確証したことだろう。

米軍は第2のマリアナを再現しようとハワイに戦力を集中して、手ぐすね引いて待ち構えているはずで

ある。


一、わが艦隊はハワイに向けて進撃するが、敵制空権内に入る前に反転、ミッドウェーを攻略する。


一、わが機動部隊は一次のみの戦闘機攻撃でミッドウェーの航空基地を無力化、その後、陸戦隊によ

り速やかに同島を攻略する。


一、無傷で確保した飛行場に特殊輸送船および特設母艦より運んだ戦闘機を進出させ、基地として運

用する。


一、機動部隊はミッドウェー島前面で再反転、追従してきた米機動部隊と雌雄を決する。


この時点でミッドウェーを完全に基地化していることが重要である。


この基地から戦闘機を補充し航空消耗戦を切り抜ける。


一、わが戦艦部隊は、やはり制空権下に入る前に反転、ミッドウェー近海にて敵主力艦隊を迎え撃つ


ただし、敵艦隊をおびき寄せるため敵の長距離第一波攻撃を耐え抜いてもらう。


そのため、主力艦隊には軽空母群をもって防空の傘の役目を担ってもらう。

米軍は満を持して待ち構えるハワイの目前で、反転するわが艦隊を見て愕然とするであろう…」

ミッドウェー攻略は作戦の成否を決定するキーポイントといえる。

「今作戦は、タイミングがすべてである。よく作戦を理解し、何をすべきかを徹底的に頭に叩き込んで

いただきたいと思う。」


山口の気迫に気押されたかのように各司令官は黙々と作戦の内容を吟味していた。

8月8日、全機動部隊は会合地点目指してマリアナを出向した。米潜水艦の発する無線を傍受したが臆

することなく進撃を開始する・・・


後戻りの出来ない大海戦の幕開けのときが迫っていた。

機動部隊の配置は次の通り・・・   

第一機動部隊・・・山口多聞

大鳳 剛龍 雲龍 準鷹

金剛

五十鈴 長良 球磨 鹿島

 


第二機動部隊・・・大西滝次郎


瑞龍 天城 葛城

霧島

那珂 名取 香取

 


第三機動部隊・・・小沢冶三郎


赤城 加賀 蒼龍 翔鳳

榛名

神通 阿武隈 多摩

 


第四機動部隊・・・原忠一


翔鶴 瑞鶴 飛龍 瑞鳳

比叡

川内 木曽 由良

 


第五機動部隊・・・城島高次


生駒 笠置 阿蘇 龍鳳

青葉 衣笠

那珂 名取

 


第六機動部隊・・・加来止男


浅間 妙義 雲仙

古鷹 香椎

天竜 龍田 夕張

 


各機動部隊には防空駆逐艦秋月級はじめ、防空艦に改装された駆逐艦群が多数周りを固めていた。

 

 


                           
   

 

 

 

鋼鉄の巨人たち

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