思惑

 


ハワイ、太平洋艦隊司令部では日本艦隊の動向を正確に把握していた。


「ジャップの艦隊が動きました。ほぼ全力でハワイを目指しています。輸送船団を多数伴っています。

やはり本気でこのハワイを狙っているようです。」


「ついに来たか・・・ハワイ沖に来冠予定日時は8月15日未明か・・・

わが軍も予定通り戦闘配置につかせよう」

「先陣は私にやらせてもらいものだな」大きな体を前に突き出してカーチス・ルメイ少将がニミッツに

迫った。


階級は下なのだが横柄な態度は、直接の上官ではないからか・・・

ニミッツは顔を曇らせたが発言を許した。

「まず、敵の主力艦隊にB−29による絨毯爆撃を行う。

総数60機、1機当たり100発の60キロ小型爆弾を搭載し、6000発の爆弾の雨を降らしてやる



いくら命中精度が落ちようと、広範囲にばら撒かれればひとたまりもない。

撃沈は出来なくてもレーダーや対空火器には甚大な損傷を負わすころが出来るだろう。

手傷を負わせたところで、大きな獲物をプレゼントするぜ」

ルメイはウィンクをしながらリー提督に親指を立てて見せた。

ルメイは将来実行に移るであろう日本焦土作戦プランの成果を実証するため、あえて出撃を熱望してい

た。


小型爆弾を焼夷弾に変えて、すべてのものを焼き尽くす・・

梯団を組んで広範囲を殲滅する戦法の成果を、たとえ動く目標でも攻撃可能なことを確かめたいのだ。

「私もこの度は搭乗させてもらって、自分の理論の確かさをこの目で見てきますぜ」

ルメイは自信に満ちていた。 

護衛戦闘機をつけたらという意見も、B−29の鉄壁の防御をご覧に入れると、自ら辞退した。

ニミッツは、勝手にしろとでも言うようにあっさり容認すると太平洋艦隊のほうに話を戻した。

「わが艦隊はハワイ南方に展開し、北上してくる日本艦隊を迎え撃ちます。上空は常にハワイ在中のP

−51戦闘機部隊に守ってもらい空からの脅威を排除します。


マリアナで日本艦隊がやったように徹底的に守りを固め艦隊決戦に全力を集中します。

ルメイ将軍の作戦が成功すれば、より撃退の可能性はあがるでしょう」

リー提督は横目でルメイを流し見たが、指を立てるようなことはしなかった。

そしてすぐ話に戻した。

「わが軍はロードアイランドをはじめ、戦艦11隻の戦力を有しました。すべて新世代の戦艦、質量と

もに完全に日本艦隊を凌駕しています。必ずや日本艦隊を撃滅してご覧に入れましょう」


リーは控えめながらも自信に満ちた闘志を内に秘めていた。

レーダー射撃はほぼ満足のいく程度に仕上がってきた。

日本艦隊の射撃制度、散布界の狭さには及ばないかもしれないがひとたび敵を捕らえたら

砲門の数で圧倒できると信じていた。

ニミッツはミッチャー空母部隊長官に発言を求めた。

空母部隊は大小24隻に及ぶため、2群に分けられた。

一隊をミッチャーが直接率い、第36任務部隊と称しエセックス級4、インディペンデンス級3、カサ

ブランカ級5を擁する。


そしてもう一隊は、戦傷が癒えたスプルーアンス提督が第58任務部隊と称しエセックス級4、インデ

ィペンデンス級3、カサブランカ級5を指揮する。


「わが空母艦隊は二群に別れ、ハワイの北西に位置して日本機動部隊の殲滅に集中します。

マリアナやトラックでは敵戦艦部隊攻撃によって、戦力をすり潰してしまい、空母決戦に全勢力をつぎ

込めませんでした。今回は戦力が拮抗しています。勝敗は五分でもハワイ近海ということでイニシアチ

ブはわが軍が取れると確信いたしております」


ミッチャーの、次は航空支援要請を出してきても、受け入れぬぞと言わんばかりの皮肉たっぷりの言い

方にリーは憮然となった。


作戦会議は各提督の思惑が絡み、決して一枚岩とは行かなかったが、とりあえず基本方針は決まった。

ニミッツは、不仲な提督たちに一抹の不安を抱いたがとにかく結果がよければいいのだと自分に言い聞

かせていた。

 

 

銀翼のフェニックス

 

B−29 スーパーフライングフォートレス
ルメイ将軍指揮の下、日本艦隊に小型爆弾の絨毯爆撃を試みようとする


8月15日未明、ハワイ ヒッカム飛行場には轟音を響かせながら60機のB−29が暖機に入ってい

た。


ルメイはその一番機に搭乗し出撃許可を待っている。

「頼んだぞ、将軍」ニミッツは半ば呆れ顔で出撃を見送った。

ルメイは独自に日本艦隊の情報を仕入れ、つい1時間ほど前、独断で出撃する旨を伝えてきたのだ。

「まったく勝手な奴だ・・・戦果を上げてくれればよしとしよう」

海軍からすれば爆撃機による戦闘行為はおまけのようなもの、結果が出ればしめたものくらいに思えば

いい。


編隊は一路、南方1000海里に現れた日本艦隊に向け飛び立っていった。

 


水平線から昇る太陽は黄金色に輝き、B−29のジュラルミンの肌をまるでダイヤモンドのように輝か

せていた。


サングラスをかけ、モーニングコーヒーを片手にルメイは今日が自分にとって最良の日になることを疑

わなかった。


小型とはいえ、6000発の爆弾の雨・・・いまだかつてどの国の爆撃機もなしえなかった大量の絨毯

爆撃・・・


海を移動する艦隊といえどもその威力の前には甚大な被害を被るだろう。

その成果はこれからの対地上攻撃を根底から覆すことになろう。

一人ほくそ笑むルメイであったが、偵察員から悲鳴ともつかぬ絶叫を耳にした。

「前方に敵機多数!急速に接近中!100…いや150機はいます」

思わずコーヒーを取りこぼしそうになったが、各機、編隊の幅をちぢめ防御を固めるよう命令を下した



海鷹
日本小型空母 主力艦隊の護衛のため戦闘機のみを搭載し出撃した
外洋航行できる最小空母  搭載機数20機
神鷹
日本小型空母 客船を改造して空母として生まれ変わった
小型空母の中では比較的大きかった。 搭載機数36機



日本艦載機は主力艦隊の護衛を担当する木村昌福中将指揮の軽空母群から飛び立った。

龍譲はじめ、大鷹、雲鷹、沖鷹、神鷹 海鷹よりなる空母群は戦闘機のみをそれぞれ30機前後搭載し

防空任務についていた。


0500時に大和の電探はハワイから来襲する大編隊を捕らえた。

すかさず護衛艦隊に報告すると出撃を促した。

敵の第一波を阻止する目的で随伴してきた軽空母群は、まよわず全機を持って迎撃に当たらせたのだ。

「隊長!敵は重爆、約60機、高度6000にて南下中!それにしてもデカイ!」

報告を受けた樫出 勇少佐は

「雲鷹、神鷹隊は敵の後ろに回りこめ、龍譲、大鷹隊は上空より攻撃、3号爆弾を使用後突入せよ、海

鷹、沖鷹隊は第2次攻撃に備えよ」


矢継ぎ早に、しかも適切な指示は重爆食いの神様と異名をとる樫出ならではである。

三号爆弾とは空対空兵器の一種で、敵機上空より投弾、時限装置をもって敵中で爆発させ、無数の破片

を傘状に散布するもので、密集隊形をとる大型機には威力絶大である。


しかし、目測による投弾なのでタイミングが非常に難しく、熟練を要した。

 


「もっと密集せよ。敵機が来たら集中射撃で粉砕せよ。」


B−29は、超空の要塞と異名をとるように防御射撃においても当時の常識を逸脱していた。

後部に20ミリ機関砲を、機体上下部に12・7ミリ機関砲を12門搭載し、遠隔操作によって射撃を行

う。


これが編隊を組んで防御射撃を行なえば、もはや近づくことさえもままならない。

ルメイはそんなB−29に期待をしていたし、搭乗員もこの機体の性能を信じていた。

「将軍!上空の敵編隊が何かを投下しました」

ルメイは偵察員が指差すほうを見あげた。

?・・・それは気流に乗ってみるみる編隊の中に吸い込まれると一斉に爆発した。

目もくらむ閃光が走り、十数発の光の球は傘状にはじけ、くらげの食指のように編隊を包み込んだ。

無数の破片を食らった機体が炎を吹き上げながら落ちていく。

ある機はエンジンに、またある機は飛び込んだ破片によりコックピットを粉砕され、主を失った機体は

、はじめは静かに、やがて頭を真下にむけ最大速度で落ちていく。


墜落とはいかないまでも、機体に重大なダメージを受けた機体は次々に落伍していく。

中には三号爆弾の直撃を食らい、自らが運んできた100発の60キロ爆弾とともに一瞬のうちに消し飛ん

だ。


周りの機はあまりのことに回避できず空中衝突、あるいは大量の残骸を浴びて共に墜落していく。

恐れをなした数機が隊列をといて遁走にかかる。

「いまだ!落伍した機から攻撃せよ。編隊には引き続き三号爆弾攻撃を続行せよ。」

樫出は自らも落伍していくB−29に向けて真上から攻撃を敢行した。

一個小隊4機は一糸乱れぬ軌道を描いて連射を浴びせながら獲物の横をすり抜けた。

翼の付け根を射抜かれた機体は根元から折れ、錐揉みをしながら落ちていく。

破片に混じって機体から放り出された搭乗員が、まるで糸の切れた操り人形のように手足を激しく振り

ながら落ちてゆく。


また、下から攻撃された機が爆弾の誘爆で盛大な炎をあげて真二つに折れた。

集団からはぐれたシマウマに一斉に群がるジャッカルのごとく、編隊から離れた機は絶好の攻撃目標に

なる。


如何に重防御を誇るB−29といえども単機となり、集中攻撃を食らえばひとたまりもない。  

編隊の中央でまた火球が広がった。

数機が炎を上げて墜落していく。もはや恐怖心から遁走を図る機が後を絶たない。

編隊を解くことが逆に餌食になることはわかっているのだが恐怖が理性を上回った。

「編隊を崩すな!命令に従え!」

こんなはずではない、こんなことがあってたまるか・・・ルメイ自らも恐慌状態にあったが使命感が他

の乗員より少しだけ勝っていた。


米軍もやられっ放しではない。

不用意に近づいてきた戦闘機には容赦なく12・7ミリ機銃弾をたっぷりとお見舞いし、

一個小隊を連続で絡めとることも少なくない。

やはり編隊を崩さない集団の防御射撃はすさまじく、まさに蜂の巣の状態になって空中分解する疾風の

姿もあった。


樫出は自ら3機撃墜した後、残弾を確認して、第二次攻撃隊の小林大尉に攻撃を指示した。

様子を伺っていた小林隊の50機は翼を翻すといまだ編隊を崩さない一隊に突進した。

防御射撃を右に左にとかわしながら、最後尾の機体に向けて連射を浴びせる。

尾翼に大きく三角の部隊マークを持つこの機はそのマークが的になったかのごとく

真ん中を十数発射抜かれ尾翼のラダーが吹き飛んだ。方向舵を失った機は横滑りしながら隣の僚機に衝

突、2機共もみ合うように墜落していく。


もはや、編隊とは言えないほどバラバラになった攻撃隊であったが、ようやく水平線に日本艦隊を捉え

た。


「もう少しだ、何とか爆撃だけは敢行しなくては・・・」

爆撃体制に入るB−29を、味方の対空砲圏内に入る前に一連射をと樫出は先頭を行く指揮官機とおぼ

しきB−29に照準をあわせると前に回りこんだ。

 


「前方に敵機!将軍、伏せてください!」


パイロットが叫ぶのと銃弾が飛び込んでくるのとほぼ同時だった。

ルメイは反射的に物陰に飛びこんだが

バキバキと物が壊れる音と爆発音、そして風がうなりをあげて機内に押し寄せてきた。

よろよろと起き上がったルメイは、そこに地獄絵を見た。

パイロットの体はミンチのように切り刻まれ、副操縦士も胴と首が別の所に転がっていた。

かろうじて操縦桿は動くようだが、もはやこの機で生還を果たすのは不可能のように思われた。

「将軍、大丈夫ですか!」後部座席にいた爆撃手が飛び込んできた。

「大丈夫だ・・・私が操縦する。なんとしてでも爆撃を実行するのだ!」

ルメイの気迫に気をされて、爆撃手はあわてて部署に戻った。

まともに編隊を組んでいるのはすでに10機程度・・・

しかしルメイはそんな事にかまってはいられなかった。

自分の使命を果たすことのみが目的となったかのように・・・

気がつくと日本の戦闘機は姿を消し、代わりに高角砲弾のおりなす爆煙に機体は包まれていた。

 


日本艦隊は敵機接近を察知すると、すぐさま戦艦を中心に輪形陣を組み、来襲を待ち構えていた。


遠目でも目視できるほど大きな爆撃機が一機また一機と墜落していく。

炎を引きずりながら落ちる様は伝説の火の鳥を見る思いだ。

ただし不死鳥ではなく永遠の眠りにつく断末魔ではあるが・・・

大きく数を減らしながらもようやく艦隊上空にたどり着いた編隊は爆弾槽をあけ、爆撃体制に入った。

「打ち方はじめ!」外郭に位置する駆逐艦から盛大に高角砲弾を打ち上げる。

戦艦も一瞬爆発が起こったのではないかと思われるほど船体が真っ赤に染まるとその火線はB−29に

向けて突き刺さっていく。


近接信管を仕込まれた砲弾は確実にB−29の命をそぎ落としていく。

一機がぐらりと傾いたかと思うと急激に頭をかしげ炎を引きずりながら落ちていく。

またある一機は開けた爆弾層に直撃を食らい瞬時に粉々になる。

機体が大きいだけに損害も受けやすい。

直撃を受けないまでもあまりにも多くの砲弾片を食らい落伍するものが相次いだ。

 


ルメイの機も第1.第2エンジンがすでに停止し、大きくバランスを崩しながらも爆撃地点を目指した

が砲弾の破片が燃料タンクをぶち抜き火災を発生させた。


もはやこれまでか・・・

ルメイは投弾を諦め、一番近くにいる戦艦に機首を向けた。

ならば・・・死なばもろ共だ!

傷ついた機体をなんとか転舵させると操縦桿をぐいと前に倒した。

吹き込む爆風のため前が見えないが、心眼で見定めたがごとく戦艦播磨に向けて突撃していく。

戦艦播磨の高角砲、機関砲が一斉に火を吹く。艦が一瞬真っ赤に染まるほどの火線がルメイ機を捉えた



ルメイ機は全身を炎に包み、まさに火の鳥になってしばらくは飛び続けたが、ついに力尽き、ガクリと

機種を下げると波間に突っ込んだ。


その瞬間、爆弾が誘爆したのだろう、閃光が走ると大爆発をした。

たまたま近くを航行していた駆逐艦山雲は大量の破片を浴び船体を損傷した。

しかし、ルメイの攻撃による戦果はこれだけであった。

彼が思い描いた6000発の絨毯爆撃は彼と共に、ただの一発も投弾させることなく夢と潰えた。

ルメイ機の墜落をもって爆撃機による攻撃は終焉を迎えた。

「敵爆撃機は10機程度が遁走の模様、その他は完全に制圧せり」迎撃隊隊長樫出少佐は報告を終える

と、集合をかけ母艦に帰還していく。



「予定通り、敵の第一波を撃退した。これからが本番だ。しかし多聞丸には感謝をしなくてはな。何と

か工面して航空母艦を付けてくれたおかげで被害を受けずに済んだ。


護衛なしで敵の攻撃を食らっていたらかなりの損害を出していたかもしれん」


角田主力艦隊司令長官は改めて山口多聞の先見の目に感心してやまなかった。

「艦隊決戦では勝つことが多聞丸への恩に報いることになるだろう」

角田は参謀たちに笑いかけた。

 



「8・・・9・・・10・・・これで全部のようです。」


ヒッカム飛行場に帰投してきたB−29は10機だけだった。

どの機も満身創痍となり、帰り着いただけでも奇跡と思わせる機も少なくない。

「ルメイも戻らなかった・・・所詮護衛の戦闘機なしで攻撃をかけること自体が無謀だった。功をあせ

るからこんなことになるのだ!」


ニミッツは初戦の失敗を認めながらも

「まぁいい、これからが本番なのだ。全基地に連絡・・・まもなく敵艦隊が制空権内に入る。総攻撃を

かけ一隻でも多く血祭りにあげよ!太平洋艦隊にも進撃を告げよ!」


ニミッツの命を受け通信員が無線機にかじりつく。

窓の外には整列を終え、出撃を待ちわびる陸海軍の攻撃隊が暖気に入っている。

ゴーゴーと響くエンジン音に大気が揺らぎ、声も聞こえない。

攻撃隊総数800機、いままさに復習者となり日本艦隊に襲い掛かろうとしていた。

 

ミッドウェー

 


ハワード一等兵は当直交代の時間を心待ちに時計ばかり気にしていた。


「後5分で交代かぁ、ビールでも飲んで一眠りしようか・・・」

ここミッドウェーはまるで戦争を忘れてしまうほど平和である。

一時期対日戦の前線基地にと、滑走路を3本も作り100機前後の常駐機を擁していたが

前線価値が薄れると大方の部隊はハワイに移動していった。

ハワイは今頃決戦が繰り広げられているんだろうなぁ

半ば呆け気味にあくびをする。

「?・・・」

かすかに爆音を聞いたような気がしたが、それは徐々に大きくなり肉眼でもはっきり視認出来るように

なってきた。


おびただしい数の飛行機が海面すれすれを進行してくる。

ハワードは尻餅をついて後ずさった。

 



「全機突撃せよ!目標は兵舎、陣地、駐留機。くれぐれも燃料貯蔵庫、滑走路は攻撃するな」攻撃隊長

の板谷中佐はレシーバーで全機に命令した。


15日6時55分、レーダーに察知されぬよう海面すれすれを飛行してきた戦闘機群100機はミッド

ウェー島の基地に襲い掛かった。


完全な奇襲となったミッドウェーはまさに日本戦闘機群の跳梁を甘受せざるを得なかった。

あわてて配置につく銃座には、しこたま20ミリ機関砲が打ち込まれ射撃手もろともミンチになる。

まだ眠りから覚めない兵舎には小型爆弾が放り込まれ、兵隊は目覚めぬまま永遠の眠りにつく。

駐留機もまるで射撃の的のようになすすべもなく粉砕される。

2個中隊1000名ほどが配置されていたが、突然戦場に放り込まれて右往左往するばかりでなすすべ

もなく機銃弾の前に倒れていく。


ハワード一等兵は塹壕に飛び込み嵐が過ぎるのを待つ意外になす術がなかったが、海上を見て、これか

ら何が起きようとしているのかはっきり悟った。


おびただしい数の艦艇と上陸用舟艇が今まさに上陸を開始しようと迫っていた。

ハワードは塹壕沿いに通信機のある小屋に飛び込むと、うろ覚えのモールスキーを叩いた。

『ミッドウェーが大変なことになった・・・ジャップがやってきた・・・』

うまく打てただろうか?ハワイは気がついてくれただろうか・・・

バリバリバリ・・・!!

小屋に機銃弾が命中し壁が吹っ飛んだ。

「Ou  may  god!

小屋の下敷きになったハワードは大勢の日本兵が海岸に上陸し、飛行場目指して走る姿を見た。

屋根の重みは急速に彼の意識を奪い去っていった。

 

輸送艦矢タンカーに特設の甲板を敷き、発艦のみを行なえる改装が施された。
輸送時は露天制止で運ぶため、日夜整備員の手入れが必要であった


広島第2師団を中核にした上陸部隊はほとんど抵抗を受けずに進撃し瞬く間に滑走路を占拠し、残敵掃

討に移った。


米国の暗号解読を逆手にとって、ハワイに目を向けさせたため、ほとんど無防備だったミッドウェーは

2時間もすると島のほとんどを占領した。


滑走路上は破片や残骸が散らばっていたが、まもなく工兵部隊によってきれいに片付けられる。

「上陸部隊から連絡!ミッドウェー島は占領せり。安全を確認す」

山口の元に第一段階の完了がもたらされた。

「第二段階にはいる。戦闘機の揚陸を開始せよ!」

山口はすぐさま命令を発する。

ミッドウェー島は、戦闘のときよりもあわただしさに包まれていた。

特設輸送艦(艦上に急遽飛行甲板を張り、発艦のみを行える。10数隻が改造され5〜15機程度が搭

載されていた)から飛びたった疾風が次々に飛来する。


また、揚陸艦に積載されてきた戦闘機も飛行場に運び込まれてくる。

掃討戦に加わる部隊以外は総出で飛行場の整備にあたった。

「急げ!一分でも早く使用可能にするんだ!」

あわただしく行われたミッドウェー島攻略は予定通り、正午をもって基地化に成功したのである。

作戦名『ヤドカリ』は、空前の攻略劇として戦史に刻み込まれた。

 

 



AM8:15 ニミッツの元に二通の緊急報告が飛び込んできた。


電信員は、信じられないというような顔をニミッツに向け、一つ大きく深呼吸すると電文を読み上げた



「ミッドウェーからの電文です。誤信もあり読みづらいのですが、日本兵が上陸してきたと読み取れま

す。」


「ミッドウェーと連絡は取れないのか!敵の目標はハワイではないのか!」

二ミッツは自分が思い描く作戦に、想定外のことが起こったことに怒りをあらわにした。

そんなさなか、今まさに制空権内に入る日本艦隊の驚くべき行動がもたらされた。

「日本艦隊が反転しました。ミッドウェーに向かっているようです。」

「攻撃隊を発進させましょう!」

「いや、この距離では帰りの燃料が持たん。攻撃に成功してもほとんどの機体が失われてしまうだろう



「ミッチャーの空母に追撃させましょう」

参謀たちの具申に、二ミッツは考えあぐねていた。

ハワイの西北に位置するミッチャーの艦隊なら距離を縮めて攻撃をかけられるかもしれない。

 

それにしてもミッドウェーを襲った日本艦隊は機動部隊本隊なのか?・・・

ならば、日本戦艦部隊に戦力を割くのはトラック沖海戦の二の舞になりかねない・・・

そこに新たな報告が入った。

「リー提督からです。我、敵戦艦追撃に移る・・・です」

「リーの艦隊なら敵がミッドウェーに向かうとして、途中で日本艦隊を捕捉できます。」

地図に線を描きながら司令部員が答える。

新たな戦術を展開している矢先、今度はミッチャー提督から急報が届いた。

「ミッドウェーを急襲した部隊は機動部隊の本隊の模様・・・われ、敵機動部隊と雌雄を決っせん。ミ

ッドウェー方面への移動を許可願いたい」


二ミッツは双方の位置関係を地図上に描いた。

「待てよ・・・これは罠ではないか・・・ミッドウェーを餌にハワイの制空権外にわが艦隊を引っ張り

出そうとしているのではないか・・・」


確かにそのようにも見えます。ただ敵も後ろ盾がないのは同じ・・・万が一を想定して

こちらの勢力圏内までの追撃を許可してはいかがでしょう」

「暫定的ではあるがそれしかなかろう・・・許可する」

二ミッツはとりあえず断を下した。

しかし自分が何かとてつもない力で操られている感覚を感じないではいられない。

一抹の不安を抱きながら、次の展開が生起するまで見定めるしかないと思った。

 

 



                           
   

 





 

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